競馬入門講座

斤量を徹底解剖

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川田 信一
川田 信一
1978年、東京都出身。単撃理論の提唱者・ 趣味で始めたメルマガが、人気薄の単勝を的確に当てることで評判に。わずか半年で2,000人を超える読者が口コミだけで集まる。グリグリの人気馬を迷わず消し、穴馬の単勝を的中し続けている生粋の単勝馬券師。

こんにちは。競馬予想家の川田信一です。

2012年に『見るだけで「単勝」が当たる“単撃”リスト(東邦)』という著書を上梓。以降も積極的に競馬書籍を出版し、ウェブやメルマガなどでも活動しております。

その昔、競馬場へ連れて行った初心者の女の子が、「騎手ってみんな50代なんだ!?」と驚いたことがありました。何を言っているのだろうと聞き返してみると、「ほら、騎手の名前の下に年齢が書いてあるでしょ」。それ年齢ちゃう、斤量や(笑)。

競馬ファンにとってみれば、騎手名の横や下に斤量が書いてあるのは当たり前。でも世間一般の常識でいえば『川田信一(55)』とあったら、この55はキログラムではなく、55歳ですよね。

ファンなら誰でも理解しているように思える競馬の斤量。しかしその決定方法や影響を細部まで理解している人は、意外に少ないような気もします。今回は斤量について徹底解剖していきます。

斤量の仕組みについて

斤量≒騎手の体重

斤量(負担重量)とはレースに出走する競走馬が背負わなければいけない重量のことです。騎手自身の体重に加えて、着ている勝負服、プロテクター、鞍など、所定の馬具の重さを合計して、指定された斤量に合わせます。

騎手の体重が軽すぎて馬具だけで負担重量に満たない場合は、重量調整用の鉛を勝負服に装着するか、重量調整パッドを鞍に装着するかして、指定の斤量に合わせるようにします。

競艇や競輪はレースが終わるとすぐに払い戻しが確定しますが、競馬は少し時間がかかります。その理由は後検量を行なうから。レースが終わった後に斤量を計量し、指定された負担重量でレースに乗っていたかを確認し、そこではじめてレースが完結するわけです。

レース前にも検量しているのに、わざわざレース後にも検量する理由は、不正を行なって軽い斤量で騎乗しているかもしれないから。実際にレース前と後で斤量が変わっていることも、過去にはありました。

1999年にはシンコウシングラーに乗った柴田善臣騎手が負担重量を間違えて、後検量で失格処分になるという事件を起こしました。また1998年には穂刈寿彦騎手が、前検量で不正をして騎乗し、後検量でその不正が発覚し、9日間の騎乗停止処分を受けています。

斤量の決定方法

競走馬の負担重量はレースごと指定された条件で決まります。おおまかにいうと、

①馬の年齢で斤量が決まるレース

②ハンデキャッパーが斤量を決めるレース

③馬の年齢、性別、収得賞金、勝利度数など番組が定める条件で決めるレース

馬の年齢だけで斤量が決まる①のレースは馬齢重量戦(馬齢戦)と呼ばれます。これが採用されるは、主に2歳時や3歳時の同一年齢の馬同士が走るレースです。2歳の9月までは牡牝ともに54キロ、2歳の10月から12月は牡が55キロで牝が54キロ、3歳9月までは牡が56キロで牝が54キロ、3歳10月から12月までは牡が57キロで牝が55キロで出走します。

JRAのハンデキャップ作成委員が斤量を決める②のレースは、いわゆるハンデ戦です。出走予定馬の実績や近況を考慮して、出走全馬に勝つチャンスを与えるよう(どの馬からも馬券が売れるよう)に斤量を決めます。

とはいえ、昔に比べるとハンデ戦の斤量差は小さくなっています。昭和の競馬では60キロを超えるハンデも珍しくありませんでしたが、最近の平地競走では60キロを超えるハンデが出ることはめったにありません。また重賞レースの数も増えたため、重いハンデを課せられそうな有力馬が、あえてハンデ戦を使うことも減っています。

そして③の別定戦は、レースごとに様々な条件があります。年齢と性別に加えて、収得賞金○○○○万円ごとに1キロ増という条件がついたり、G1優勝馬は1キロ増しという条件がついたり……。その細かな条件は、JRAの番組表に記載されています。

斤量差による影響・有利・不利について

斤量がレースに与える影響

事細かに決められて、レース前にも後にも検量が行なわれる、競馬の負担重量。なぜここまで厳格に扱われているかというと、確実に負担重量がレース結果へ影響するからです。

象徴的なのが、フランス・ロンシャン競馬場で行われる凱旋門賞です。凱旋門賞は、3歳牝馬が55キロ(2016年までは54.5キロ)、3歳牡馬が56.5キロ(同56キロ)、4歳以上は牝馬が58キロ、牡馬が59.5キロ、に設定されています。2001年から2018年の間の優勝馬をみると、3歳牝馬が4勝、3歳牡馬が7勝、4歳牝馬が4勝していますが、4歳以上の牡馬はわずか3勝のみ。さらに2007年から2018年まで4歳以上牡馬は勝利していません。斤量の軽い3歳馬や牝馬があきらかに有利な大レースなのです。

日本競馬でも近年はトレーニング技術が向上したため、3歳馬の成長が早くなったといわれています。古馬混合戦が始まったばかりの夏は3歳馬と古馬の斤量差が大きいため、夏は3歳馬が有利という格言も生まれています。さらに2019年からは降級制度が廃止になるので、より夏は3歳馬有利が顕著になることでしょう。

斤量1キロ差=何秒の差?

一般的には、斤量1キロ差=0.2秒差が出るというのが定説です。イギリスでハンデキャップ競走が始まった時代から「1ポンド(約453グラム)=半馬身(0.1秒)」という考え方が主流で、JRAのハンデキャッパーも「斤量1キロ=0.2秒」で斤量を決定しているといわれています。

ただし距離が長くなれば重い斤量を背負う時間が長くなるので着差に与える影響が大きくなり、距離が短くなれば小さくなるという説もあります。逆に、スタートダッシュが利きにくくなる分だけ短距離戦ほど大きな斤量は不利という説もあります。

馬によっての個体差もあります。重い斤量を背負ってケロッとしている馬もいれば、斤量が1キロ増えただけでサッパリ走らなくなる馬もいます。結局のところ、馬がしゃべらない動物であり、斤量が影響しているか否かは騎手の感覚に委ねられる面があり、さらに調教師の敗戦の言い訳に斤量が使われることもあるため、絶対的に「斤量1キロ=0.1秒」が正しいわけではないと覚えておいてください。

斤量別的中率・回収率データ

斤量別データ

下表は2015年~2017年の平地競走の斤量別のデータです。

斤量 勝率 連対率 複勝率 単回収 複回収
~49kg 5% 11% 16% 49% 58%
49.5~51kg 4% 8% 12% 66% 65%
51.5~53kg 5% 11% 16% 78% 71%
53.5~55kg 7% 14% 21% 71% 72%
55.5~57kg 8% 15% 23% 74% 74%
57.5~59kg 8% 18% 26% 73% 81%
59.5~ 0% 0% 0% 0% 0%

※2015年~2017年の平地集計結果

基本的には重い斤量を背負っている馬ほど勝率・連対率・複勝率が高い。ハンデ戦や別定戦で重い負担重量を課せられる馬は、総じてこれまでに実績をあげている馬です。斤量差を跳ね返してでも勝つケースが多いのです。

逆に斤量51キロ以下の馬は、勝率も回収率も低く出ています。

なかでも、斤量48キロの馬は全23頭がすべて5着以下。48キロは平場で発生することはまずなく、ハンデ戦で箸にも棒にもかからないような馬が背負う斤量なので、めったに好走しません。同じくハンデ戦の斤量49キロも全25頭がすべて4着以下。よほどの材料がないかぎり、ハンデ戦の49キロ以下は馬券から消せるのです。

軽い斤量で注意が必要なのは、平場で▲(3キロ減量の新人騎手)が騎乗している馬です。かつて若手騎手と話をする機会があったのですが、そのときに「▲(3キロ減量)と△(2キロ減量)では馬の動きが違うことがある」と語っていました。すべての馬が成功するわけではないですが、▲効果が炸裂することもあるので覚えておいてください。

またハンデ戦では、55.5キロ、56.5キロ、57.5キロなど、500グラム単位でのハンデが出ることがあります。この500グラムハンデを背負った馬は不思議と好走率が高いというデータがあります。頭数は少ないのですが、斤量55.5キロは複勝率42%、斤量56.5キロは複勝率48%、斤量57.5キロは複勝率39%をマークしています。ハンデキャッパーが500グラムという微妙なハンデ差をつける馬は、何らかの見どころがあるケースが多いのでしょう。

斤量別データ(1番人気)

下表は2015年~2017年の平地競走における1番人気の斤量別データです。

斤量 勝率 連対率 複勝率 単回収 複回収
~49kg 22% 67% 78% 58% 108%
49.5~51kg 33% 49% 62% 82% 81%
51.5~53kg 31% 49% 60% 86% 83%
53.5~55kg 33% 52% 65% 78% 83%
55.5~57kg 31% 51% 65% 76% 84%
57.5~59kg 31% 53% 58% 81% 81%
59.5~ 0% 0% 0% 0% 0%

※2015年~2017年の平地集計結果

データ集計期間内の1番人気成績は、勝率33%、連対率51%、複勝率64%。1番人気に限っては、斤量による大きな成績差が出ないことがわかります。

しいてポイントあげるなら、斤量51キロ以下や57.5キロ以上はやや成績にムラが出る点。サンプル数が少ないので絶対ではありませんが、斤量が軽すぎる&重すぎる1番人気は少し注意が必要です。

斤量別データ(1番人気)

下表は2015年~2017年の平地競走における穴馬(単勝10.0倍~49.9倍)の斤量別データです。

斤量 勝率 連対率 複勝率 単回収 複回収
~49kg 4% 10% 15% 85% 80%
49.5~51kg 4% 9% 15% 72% 73%
51.5~53kg 4% 10% 17% 86% 80%
53.5~55kg 4% 10% 17% 78% 79%
55.5~57kg 4% 10% 17% 80% 78%
57.5~59kg 4% 11% 18% 86% 88%
59.5~ 0% 0% 0% 0% 0%

※2015年~2017年の平地集計結果

表にあるように斤量の重い穴馬の方が好走率や回収率が高い。これには理由があって、斤量51キロ以下の馬にはまったく能力のない馬が多く含まれていますが、57.5キロ以上の斤量を背負うような穴馬は少なからず過去に実績を残しているからです。

ハンデ戦に限定すると斤量53キロと斤量57.5キロ以上の穴馬が狙い目で、どちらも単勝回収率が100%を超えています。

ハンデ戦で斤量53キロになる人気薄いは、性別の影響で前走よりも斤量が軽くなる牝馬や、昇級してきた勢いのある馬、上級クラスでまったく通用しなかった降級馬などが多く、激走することがよくあります。57.5キロ以上の人気薄には、展開待ちの実績馬が多く、ドンピシャの流れになったときに穴をあけます。

軽ハンデ×○○データ

軽ハンデ×距離別データ

ここからは出走馬の斤量差が大きくなるハンデ戦に考察していきます。

ハンデ戦で目がいくのは、斤量に恵まれたいわゆる軽量馬。能力や実績的に一枚落ちる馬が、どんな条件で激走し、どんな条件を苦手とするのかがわかれば、馬券予想の役に立つと思います。

まずは、2015年~2017年のハンデ戦、斤量53キロ以下の馬がどんな距離で活躍しているかをまとめてみました。

距離 勝率 連対率 複勝率 単回収 複回収
1000m~1300m 6% 10% 14% 109% 78%
1400m~1600m 4% 9% 14% 62% 74%
1700m~2000m 5% 10% 16% 84% 88%
2100m~2400m 4% 11% 16% 55% 75%
2500m~ 5% 11% 14% 107% 50%

※2015年~2017年の平地ハンデ戦53キロ以下の馬の集計結果

軽ハンデ馬の勝率や複勝率は、距離によって大きく変化することはありませ。しかし回収率はまったく違う。1300m以下の短距離戦と2500m以上の長距離戦、極端な距離で軽ハンデ馬の回収率が高くなるのです。

短距離戦はスタートダッシュが利きやすくなるため、長距離戦は走る距離が長くなるため、人気薄の軽ハンデ馬が穴をあけるようです。

具体的には、芝1000m~芝1200mの短距離戦、芝2500m以上の長距離戦、ダートは1150m~1200mの短距離戦と、ダート1800mや2000mも優秀な数字が出ています。

軽ハンデ×馬体重別データ

続いて、2015年~2017年のハンデ戦に53キロ以下で出走した馬の、馬体重別成績をまとめたのが下表です。

馬体重 勝率 連対率 複勝率 単回収 複回収
~399kg 0% 0% 0% 0% 0%
400~419kg 4% 8% 18% 35% 75%
420~439kg 7% 16% 21% 86% 100%
440~459kg 6% 11% 16% 72% 73%
460~479kg 4% 11% 15% 66% 69%
480~499kg 4% 8% 13% 90% 78%
500~519kg 5% 9% 13% 133% 93%
520~539kg 5% 7% 13% 54% 47%
540~ 6% 19% 19% 256% 261%

※2015年~2017年の平地ハンデ戦53キロ以下の馬の集計結果

まず400キロ未満の勝率等が0%になっていますが、これは該当馬がいなかったためです。表にあるように、馬体重の小さな馬ほど軽ハンデの効果が大きい。小さな馬ほどカンカン泣きする(重い斤量を苦にする)馬が多いため、ハンデ戦で斤量が軽くなったときに結果を出すという傾向があります。

軽ハンデ×馬場別データ

最後に、2015年~2017年のハンデ戦に53キロ以下で出走した馬の、馬場別成績をまとめたのが下表です。

馬場状態 勝率 連対率 複勝率 単回収 複回収
芝・良 6% 11% 16% 85% 76%
芝・稍重 4% 9% 15% 63% 64%
芝・重 3% 4% 7% 84% 37%
芝・不良 10% 20% 40% 220% 243%
ダ・良 4% 9% 14% 106% 103%
ダ・稍重 3% 7% 10% 17% 51%
ダ・重 4% 8% 13% 115% 89%
ダ・不良 4% 8% 12% 23% 67%

※2015年~2017年の平地ハンデ戦53キロ以下の馬の集計結果

芝の不良馬場における成績がズバ抜けて良くなっていますが、これはサンプル数が10頭と少なかった影響もあります。基本的には、芝・ダートともに良馬場の成績が良くなっていますが、そこまでおおきな数字の差はなく、ハンデ戦の軽ハンデ馬に馬場状態はあまり関係ないといっていいでしょう。

まとめ

・斤量はレース条件によってJRAが決定する

・夏は斤量利のある3歳馬が有利

・「斤量1キロ差=0.2秒差」の差が生じるとされている

・斤量40キロ台の馬は極端に好走率が低い

・500グラム単位のハンデがつく馬は好走率が高い

・ハンデ戦で軽ハンデ馬が激走するのは極端な短&長距離戦

・馬体重が小さな馬ほど軽ハンデが生きる

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