- うまい騎手を見極める5つのポイントとは?【騎手の専門家が監修】 - 2019年12月25日
こんにちは。藤原玄志郎です。
私の専門分野は「騎手」。
どんなに能力の高い馬でも、乗っている騎手がヘタクソでは、持っている能力を最大限に発揮することはできません。反対に、能力はソコソコな馬でも、鞍上に上手な騎手が乗っていれば、自身の能力を最大限に発揮し、人気馬を負かすことも可能になります。
うまい騎手・下手な騎手を見分けるにはどうすればいいのか。今回はそのようなお話をしていきます。
目次
騎手が与える影響とは?
「馬7・人3」は昔の話?
その昔、競馬は「馬7・人3」のギャンブルだといわれていました。
「馬」とは競走馬、そしてこの場合の「人」とは騎手のことです。レースにおけるパフォーマンスは、馬の能力による部分が「7割」、騎手の能力による部分が「3割」が占めるというのが、競馬の世界に古くから伝わる言い伝えだったのです。
しかし時代は変わりました。地方競馬トップジョッキーたちのJRA移籍や、レベルの高い外国人ジョッキーの参戦増加により、いまや「馬5・人5」といっても過言ではない状況となっています。
競馬を予想する上で「騎手」は欠かせないファクターなのです。
接戦が多いからこそ騎手の腕がモノを言う
そもそも競馬は、「タイム差なし」の決着が多くある世界。ハナ差、アタマ差、クビ差の決着はほとんど「0秒0差」です。
とくにハナ差ともなれば、その差は20センチ以下。古くは1996年のスプリンターズステークスのように「1センチ差」のハナ差で決着したG1もあります。
もっとすごい例が、2010年のオークス。アパパネとサンテミリオンの叩き合いは写真判定に持ち込まれましたが、判定写真を引き伸ばしても肉眼ではどちらが先着したか判別できず、史上初の「G1で1着同着の決着」となりました。
何が言いたいのか。要は「タイム差なしの、ギリギリの勝負が多い競馬の世界では、騎手の腕が極めて重要だ」ということなのです。
その「騎手の腕」は、どのように見極めればよいのか。次の5項目にまとめました。
うまい騎手を見極める5つのポイント
ポイント①:スタート
スタートの巧拙は、馬自身の得意不得意ももちろん関わってきますが、それとともに調教師によるトレーニングや騎手の導き方も重要です。
現に、「スタート上手な騎手」「スタート下手な騎手」は存在します。長年の競馬ファンならそれぞれ数人はピックアップすることができるでしょう。
騎手におけるスタートは、「経験」よりも「センス」によるところが大きいといえます。ベテラン騎手になればなるほどスタートがうまくなるわけではありませんし、リーディング上位の騎手ほどスタートが上手なわけではありません。藤田菜七子騎手がデビュー当時から脚光を浴びたのは、そのルックスだけではなく、「確かなスタート技術」があったから。一方で、長年リーディングの上位に名を連ねているベテランジョッキーでも「スタート下手」として有名な騎手は何人もいます。
騎手は馬のストレスを最小限にしながらゲートに導き、ゲートが開くタイミングで馬の姿勢を最高の状態に整える必要があります。「アイツが出遅れたから馬券が外れた」というのは言い訳になりません。事前に「出遅れやすい騎手」をきちんと把握し、その騎手から買う場合には、それなりのリスクを覚悟しなければならないのです。
ポイント②:ポジション
ポイント②は、ゲートが開いてからのポジション取りです。
競馬は、新潟芝1000mを除くすべてのコースでコーナーがあるにもかかわらず、セパレートコースではありません。つまり「ゴールまでの距離」だけを考えたら、内枠であればあるほど有利だといえます。
この前提を踏まえ、「枠順による距離ロスを極力減らす」のが、ポジション取りにおける騎手の役割といえるでしょう。つまり、外枠からでも、最初のコーナーに入るまでに手際よく内に潜り込むことのできる騎手は、ポジション取りのうまい騎手と考えられます。
ただし、必ずしも「インコースを通ることが有利」と言い切れない状況もあります。芝コースの場合は、開催が進めば進むほどインコースの芝は荒れてきますし、ダートコースも風向きによって「砂が深く、走りづらい部分」と「砂が浅く、走りやすい部分」にムラが出ることもあります。それらも鑑み、「そのレースで騎乗する馬にとってベストのポジション取り」ができるか。ここも「ポジション取りのうまい騎手」を見抜くポイントとなります。
たとえば「芝のインコースはたしかに荒れているが、自分の乗る馬はパワーがあり、荒れ馬場が得意だ」という判断があれば、インコースを選択することも考えられるでしょう。
2016年の安田記念。ロゴタイプに騎乗した田辺裕信騎手は、スタートを切るとサッとインコースを取って逃げの手を打ち、後続を完封して8番人気の低評価を覆しました。直線のパトロールフィルムを見ると、後続馬が馬場のいい外を目指す中、頑なに内ラチ沿いを進む田辺騎手との対比が鮮やかです。
また、ポジション取りは「内か、外か」だけではありません。「前か、後ろか」、そして「早めに仕掛けるか、仕掛けを待つか」も重要な要素です。
スローペースを感じ取り、後方から早めにポジションを押し上げた例として顕著なのは、2017年のダービーでしょう。レイデオロを向正面から、半ば強引に見えるほどに動かしたルメール騎手のポジション取りが光りました。
ポイント③:折り合い
ポイント③は、馬との折り合いです。
折り合いはポイント①:スタートと同じく、馬自身の気性が占めるウエイトがとても大きな部分ではあります。
ただ、競走を勝ち抜いた馬のみが次世代にその血を残すことを許され、勝者の血が脈々と受け継がれていくのが競馬の世界。「競走能力に優れ、かつ、気性がおとなしい馬」なんてそうそういません。ほとんどの馬が「他馬より一歩でも先に」という気性を受け継いでいるわけです。
だからこそ、レース中、馬の機嫌を損ねすぎず、的確に馬を御する技術が騎手には求められます。
卓越した競走能力を持ちながら、阪神大賞典ではまさかの逸走を見せた世紀の荒くれ者・オルフェーヴル。日本でのレースでは常に、池添謙一騎手が鞍上にいました。高すぎる闘志を適度に抑えながら、三冠をはじめとしてG1を6勝もすることができたのは、オルフェーヴルの兄・ドリームジャーニーにも騎乗してこの一族の「気性」を把握していた池添騎手の力も大きかったのかもしれません。
しかし、折り合いを重視しすぎる騎手も考え物です。道中、馬の機嫌ばかりを伺っていると、肝心の位置取りが悪くなり、結果として勝ち負けに加わる可能性も減ってくるからです。多少、掛かり気味かのようにガツガツとポジションを取りにいき、いつの間にかピタッと折り合う。外国人騎手が目に見えて得意な分野です。
ポイント④:危険回避
ポイント④は危機回避能力。簡単にいえば「不利を事前に回避する能力」です。
「勝負所で行き場を失い、大きな不利を受けがちな騎手」「直線でいつも前が壁になり、よくドン詰まる騎手」。競馬ファンであれば、簡単に数人の名前を挙げることができるでしょう。その目に間違いはありません。彼らは「危険回避」の能力が低いのです。
バテた馬が下がってきたときのために「逃げ道」を常に確保しておく。フラフラしている馬の後ろは走らない。明らかに力が一枚上の馬に乗るときには、冒険をせず外を回す。このような危険回避能力は、人気馬に乗っていれば乗っているほど重要になります。
数多くの人気馬に乗り、かつ単勝回収率・複勝回収率の高い騎手は、危機回避能力に長けていると言うことができるかもしれません。JRAの公式ホームページでは全レースのパトロールフィルムを公開していますので、いろいろな騎手の危機回避能力をチェックしてみることをおすすめします。
ポイント⑤:追い
うまい騎手を見極める5つのポイント。最後のポイントは「追い」です。
地方競馬出身の騎手はよく「豪腕」と称されます。中央競馬に比べて馬の質が格段に劣る地方競馬。押しても叩いても伸びない馬を、とにかくがむしゃらに追うことで勝たせてきた彼らは、「追える騎手」と見られて当然ともいえます。
しかし、私が「追い」に関して何よりも重視するのが「まっすぐ走らせることができるかどうか」。
パトロールフィルムを見るとよくわかりますが、最後の直線で馬をまっすぐ走らせるというのは、私たち「乗馬素人」の想像以上に難しいことのようです。サトノダイヤモンドは2歳時からまっすぐ走ることで有名でしたが、そのような図抜けた素質を持つ馬は稀。ほとんどの馬は、騎手がしっかりと導いてあげなければまっすぐ走れません。
「まっすぐ走れない」ということは、「距離ロス」や「他馬との接触」、ひいては「斜行による失格・降着」につながります。
追いについては、「ムチの使い方」や「シッティングプッシュは是か非か」という議論になりがちですが、何よりも必要な技術は「まっすぐ走らせること」であることを忘れてはいけません。こちらもJRAの公式ホームページからパトロールフィルムを見ることでチェックできます。
【まとめ】
競馬はあくまでも「馬の競走」ですが、年々、騎手の重要度が高まってきています。馬の研究はもちろん、大切なお金を預ける騎手の研究もきっちりと行っておきましょう。